【まじめなコラム】木造の「快適性」について。|SENSE|大阪エリアの分譲住宅(新築一戸建)・土地ならALLAGI株式会社

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2025.10.07

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【まじめなコラム】木造の「快適性」について。

【まじめなコラム】木造の「快適性」について。

木の箱に入れられたマウスが教えてくれること

――1987年・静岡大学の実験から考える住まいの材質

住宅の広告やパンフレットを眺めていると、

「木の家は健康にいい」「自然素材は体にやさしい」といった

フレーズを目にすることがありますよね。

とはいえ、それが単なるイメージ戦略なのか、実際に根拠があるのかは

気になるところではないでしょうか。そんな中でしばしば引用されるのが、

1987年に静岡大学で行われた、マウスを使った居住材質の比較実験です。


実験の概要

静岡大学農学部の研究グループは、

マウスを「木製」「コンクリート製」「金属製」のケージ

(木の箱やコンクリートブロック、金属製の飼育箱)で飼育しました。


比較されたのは、マウスの成長、体重増加、臓器の発達、

そして特に注目されたのは「第2世代の仔マウスの生存率」です。

結果は驚くほどの差が出ました。生後23日齢での生存率は、

  • 木製ケージ:約90%

  • 金属製ケージ:約40%

  • コンクリート製ケージ:約10%

ほぼ同じ条件下にもかかわらず、材質によって仔マウスの命の明暗が分かれたのです。


研究者の考察

なぜこんな差が生まれたのか。

研究者が注目したのは「熱伝導率」でした。

マウスの新生仔は毛が生えそろっておらず、自分で体温を調整する力も

弱い存在です。そのため、床材や壁材に触れるだけで熱を奪われ、

低体温に陥りやすいという特徴があります。

  • 木材は熱を伝えにくく(熱伝導率が低い)、接触しても体温が逃げにくい。

  • コンクリートや金属は熱を奪いやすく、マウスにとって過酷な環境になることがある。

つまり、木のケージはマウスにとって「ぬくもりを奪わない箱」であり、

そのことが生存率の高さに直結した、というのが実験から導かれた結論でした。


「木の家=健康住宅」なのか?

この実験は住宅業界でしばしば取り上げられ、

「だから木の家は健康にいい」と紹介されることがあります。

確かにインパクトのある数字ですし、説得力も感じられます。

しかし多角的視点が必要です。なぜなら――

  1. マウスと人間は違うから
    マウスは体が小さく、被毛が未発達な仔は特に熱の出入りに敏感です。
    一方、人間は衣服を着て、暖房器具を使い、断熱材に守られた空間で
    生活します。単純に「木だから健康」「コンクリートだから不健康」
    と結論づけることはできません。
     

  2. 実験条件がフェアではないところがある
    温度や湿度、換気などの環境要因は完全に制御されていたわけでは
    ありません。木製ケージは多少の吸湿作用があり、内部の環境が
    安定しやすかった可能性も考えられます。
     

  3. 何度同じことをしても同じような数字に帰着するのか
    この研究は今でも紹介されますが、国際的に繰り返し検証され、
    学会で広く引用されるようなデータにはなっていません。
    つまり、「木材はいいらしい」という一例として受け止めるのが妥当です。


それでも残る示唆

それでもこの実験が示しているのは、

「私たちが見て・触れている素材が体に影響する」という事実です。

冷たい床材は冬場に足先から熱を奪い、子どもや高齢者にとっては

体調の不調につながることがあります。一方で、木のフローリングに

素足で立ったときに感じるぬくもりは、単なる感覚的な心地よさ

だけでなく、実際に熱の伝わり方が異なるために生じている現象です。

この「触れて心地よい」という感覚は、マウスにとって生死を分けるほど

強烈に作用しました。人間にとっても、長い時間で「快適感」や「健康感」

を左右する要素であることは間違いないでしょう。


住まいにどう生かすか

結局のところ、私たちがこの実験から学べるのは

「住まいの材質はただの見た目やイメージだけではない」という点です。

  • 小さな子どもがハイハイする床が冷たいタイルか、柔らかい木か。

  • 高齢者が素足で過ごす冬の居間が、どんな質感で作られているか。

  • 夏や冬の室温管理において、素材がどう体感に影響するか。

木だから絶対に健康、という単純な話ではなく、

少なくとも「暮らす人の体にどう触れるか」という視点で

材質を選ぶことは、家づくりにおいて大切なポイントになりそうです。


おわりに

1987年、木の箱に入れられたマウスたちの実験は、

単なる学術的なデータにとどまらず、

「住まいの素材が生き物にどんな影響を与えるか」を考えさせてくれます。

人間はマウスよりずっと賢く、工夫する力も持っています。

それでも「触れる素材が心地いい」「木のぬくもりが安心感をくれる」

という感覚は、科学的にも裏付けられる部分があるのです。

家を選ぶとき、図面や価格だけではなく

「自分や家族の体がどんな素材に触れて暮らすのか」という視点を持つ――

それが、この実験が現代の私たちに残してくれた

暮らしのヒントではないでしょうか。

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